好奇心の部屋

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JASRAC訴訟と著作権法の目的

news.yahoo.co.jp

興味深い記事なのでコメント。

 

1 JASRACとは何なのか

 JASRACのイメージってどんなものでしょうか?テレビやラジオで音楽等を勝手に流すと「JASRACが来る!」みたいな感じでネット界隈では煽られたりしますが(笑),実際のJASRACは,まず著作権等管理事業法に基づいて設立されています。現在は,著作権者と,JASRACとの間の契約は「著作権信託契約」を締結しているようですね。「信託契約」についての説明は省略しますが,「著作権」そのものはJASRACに移転していると考えてください。

 JASRACは,もともとの著作権者に代わって,適切に著作権を管理する代わりに,獲得した著作権料から,管理の手数料を差し引いて元の権利者に利益を分配すると,ざっくりとこんなシステムなわけです。

http://www.jasrac.or.jp/contract/nm/index.html

このサイトはわかりやすくまとめてくれているようですね。さすがJASRAC(笑)

 

2 著作権は何のために認められているのか

 さて,その著作権ですが,そもそも何のために認められている制度なのか?アメリカなんかではミッキーマウス著作権に合わせて著作権の存続期間が延ばされたりしていると言われますが,日本でもそういうビジネスが主目的なのでしょうか?

 著作権法1条には

この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

 と書いてあります。

 そう「文化の発展に寄与すること」が目的なのであって,著作権者が利益を得る仕組みは,その手段なわけです。

 

3 判決が出たらどうなりそうか

(1)ここからは,完全に推測ですが,裁判所ならどう判断するでしょう。

 まず,上記目的規定の存在は指摘するように思います。そもそも法律に目的規定がおかれているのは,その目的に反しないように制度を解釈させるためでしょう。

 そうすると,上記目的を前提にした場合には,本件でJASRACの主張を認めることは,「文化の発展」とは正反対の方向に進むように思われてなりません。ただでさえ,音楽教育にはお金がかかります。そこにさらに著作権料まで上乗せして払わなければならないとすれば,音楽の世界を志す人が相対的に減少する可能性が高まります。反対に,音楽教室からお金がもらえるからこそミュージシャンになろう!と考える人は基本的にはいないのではないかとも思います。

 そうすると,目的との関係では,JASRACの主張は制限すべきとなるように思われます。

 対して,JASRAC側からすれば,では著作権の切れた音楽で練習すればよいだけの話ではないか!という反論が考えられます。

 それはその通りなのかもしれませんが,例えば芸術作品にも時代の流れというものがあると思います。バッハやモーツァルトのような音楽を奏でられる技術も必要でしょうし,反対に最近の音楽を奏でられるような技術も大事なのではないでしょうか。むしろ,後者からこそ,今後の音楽業界を担うことのできる人間が誕生してくる可能性があるのではないでしょうか。

 そうすると,想定される反論のような内容では,「文化の発展」という目的と照らし合わせると,十分ではないのではないかという風に感じます。

(2)上記のような価値判断を前提に,では法解釈上はどうでしょうか。

 本件では演奏権(著作権法22条)の侵害を主張されているようです。

 演奏権とは「著作物を,公衆に直接・・・聞かせることを目的として(以下「公に」という。)・・・演奏する権利」をいいます。

 そうすると,「公衆に直接聞かせることを目的」としているか否かが争点となりそうです。

 上記の記事にあるJASRACの主張も「人気曲を使い、魅力を生徒が味わっている以上、聞かせることが目的」として,目的についての反論になっていますね。

 さて,JASRACの主張を認めないための解釈としては2パターンありうるように思います。

 まずは,「音楽教室での演奏は公衆に直接聞かせる」ものではないというもの。公衆というのは不特定または多数のことを言うとされていますが,音楽教室での演奏は特定かつ少数の者に向けられているという主張です。

 これは,音楽教室での実際の教育状況を見てみないと取りうる解釈なのかどうかわかりませんが,要するに「公衆に」の要件を満たさないという主張になります。

 次が,「聞かせることを目的」としていない,という解釈です。これは記事にもあるYAMAHA側の主張ですね。「技芸の伝達が目的で聞かせることが目的でない」というものです。ここでの問題は,伝達するために聞かせる必要がある以上は,聞かせることも目的に含まれているという反論に対してどう返すかでしょう。

 唐突ですが,会社法に「主要目的ルール」というものがあります。これは,株式の不公正発行に際して,発行の主要な目的を考えて不公正か否かを判断するルールです。これと同様,目的が重複しているのであれば,いずれが主たる目的なのかを考えて,演奏権を行使することに主たる目的があるのか,それとも技芸の伝達に主たる目的があるのか,を判断する,その際には著作権法の目的をも考慮に入れる,ということを考えると,なかなか面白い判決になるんではないでしょうか(完全に独自説ですので試験では書かないでくださいねw)。

 ただし,著作権法38条1項では非営利,無料,無報酬の演奏は許されていますので,この規定との関係で調整が必要になりそうですね。38条1項を反対解釈すれば,非営利,無料,無報酬以外の場合は演奏権を行使できると読むのであれば,上記のような論理は通らないことになるでしょう。

 以上要するに判決がどうなるかは微妙としか言えませんが,ざっくり形式的にはJASRAC優勢,実質的な部分を考えていくといい勝負?,という雰囲気でしょうか(適当なコメントですみません)

(3) 裁判所には,「何のために著作権という制度を認めているのか」「今回,JASRACの主張を認めることは著作権という制度の本質に反しないのか」「手段と目的が逆転していないか」という本質的な議論に付き合った判決を出してもらいたいですね。

 

以上